2005年3月の日記
3月2日(水)の夜

 クロフォードは思ったよりもだいぶ変な所で、まるでキリスト教原理主義の異世界に紛れ込んだかのようでした。すごい濃い二日間だったと思います。3月下旬に、この取材の記事が載る『AERA』が発売されるそうです(もちろん僕は取材のお手伝いをしただけです)。あまり詳しくは書きませんが、以下写真など。

ブッシュ牧場の遠景。ブッシュ牧場(Prairie Chapel Ranch)は標識も看板もゲートも何も無く、非常にわかりにくいところにありました。案内してくれた共和党の地元活動家がいなければたどり着けなかったと思います。周囲は変装したシークレットサービスと隠しカメラによって監視されていて、車を停めたり、牧場敷地内にカメラを向けようとすると飛んでくるそうです(撮影したカメラのフィルムは没収)。上の写真は十分に離れた場所から撮ったもので、地平線に森のようになっているのがブッシュ牧場です。

クロフォードの中心部。人口700人ちょっとの小さな町で、すごい寂れようですが、これでも大統領が来てからマシになったのだとか。メディアでよく報道されるブッシュ行きつけのコーヒーショップなどもあります。ちなみに町長は民主党支持者だそうです。

みやげ物屋で売っていた、昨年5月のブッシュ・小泉クロフォード「お泊り」会談の記念マグカップ。クロフォードのブッシュ牧場を訪れた各国首脳が泊まったかどうかは、ブッシュとその国の首相との親密さを表わすと言われています(イギリスのブレア、イタリアのベルルスコーニ、ロシアのプーチン、オーストラリアのハワード、日本の小泉などが宿泊した一方で、中国の江沢民は4時間の滞在のみ)。みやげ物屋によると、会談に際しては日本大使館員が2週間も前からクロフォード入りしてセッティングしていたそうで、このマグカップの日本語は大使館員に頼んで書いてもらったものだそうです。

3月4日(金)の朝

 昨日は大学内の映画館で"Team America: World Police"というのを見てきました(公開から少したった映画を上映するという趣旨のもので、無料です)。何の予備知識も無く行ったのですがまさに下品でエゲつなくて「サイテー」な映画でした。でも悪い意味ではありません。
 実写でもアニメでもなく、サンダーバードのような人形劇ですが、人形の肌の質感など本当の人間みたいにリアルで不気味ですらあります。ストーリーとしては「世界の警察」を自認する特殊部隊「チーム・アメリカ」の5人が世界をまたにかけてテロリストと対決するというもの。パリでアラブ人テロリストが爆弾テロを起こそうとしていると聞くや駆けつけ、重火器でもってエッフェル塔を倒すなど、パリを破壊しながら戦闘。結局5人のテロリストを全員殺しますが、終わってみれば実際にテロが行われた以上の被害をパリにもたらします。それでもメンバーは「世界の平和をテロリストたちから守った」とばかりに誇らしげな笑みを浮かべます。出てくるアラブ人テロリストはステレオタイプな悪人面でバッタバッタとチーム・アメリカによって殺されていきます(ちなみに人形なのに殺されるシーンはやたらリアルでグロい)。全員白人のメンバーたちは身内の死には敏感で、色々とドラマやロマンスがあるものの、アラブ人テロリストや北朝鮮軍人を殺すのに微塵の躊躇もありません。
 と、ここまで書くといかにも「世界の警察」であるアメリカがテロとの戦いにかこつけて世界中で死と災厄をもたらしていることを皮肉るリベラル映画のようですが、実はそうではありません。ストーリーはこの後、パナマ運河でのテロを防げなかった「チーム・アメリカ」が、「チーム・アメリカは世界の平和を守ると言っておきながら、実際はテロリストに敵対的な立場をとることで、さらなるテロを誘発し、より世界を危険にしている」とリベラル派市民団体から大規模な抗議を受けます。そしてマイケル・ムーアの自爆テロによってチーム・アメリカの基地が破壊されてしまいます。それでも彼らはテロリストと戦い続けますが、全てのテロの黒幕である北朝鮮のキム・ジョンイルに捕まってしまいます。キム・ジョンイルはティム・ロビンス、マット・デーモンなどのリベラル派ハリウッド俳優と組んで世界を支配しようとしています。つまりリベラル派はリベラル派で北朝鮮と組んでテロを支援しているというわけです。まあそれで結局最後はキム・ジョンイルが串刺しになって殺されて終わるという感じなのですが、この映画の政治的立場は結局どのように評価できるのでしょうか。実際、ネット上を見てみると「反ブッシュ」映画だとか、結局「アメリカばんざい!」の映画だとか色々と意見があるようです。でも僕が思うにこの映画は「保守」でも「リベラル」でもないアメリカ政治の「第三極」を理解しないことには評価できません。
 エンドロールを見て気づいたのですが、この映画の製作者はサウスパークのトレイ・パーカーとマット・ストーンです。トレイ・パーカーはリバータリアンを自認している人で(参考)、つまりこの映画はある種のリバータリアン的価値観によって作られているのです。リバータリアンというのは政府にせよ文化にせよ国にせよ民族にせよイデオロギー(反戦平和主義も含む)にせよ、個人の上位に来るあらゆる権威が嫌いで、気楽に生きようぜ!という人たちです。しかも他人の中身については、自分の邪魔にならない限りは無関心で、変に説教したり説得したりもしません。他人がアホでもクズでも、害が無い限りは放っておくという立場で、おせっかいを嫌います。何が善かとか個人の価値観に関しては考えもしないし、正直どうでも良いという感じです。そして何らかのそうした権威に縛られている人々を嘲笑します。アイン・ランドはこの点、個人主義的ではありますが個人の人間としての価値の優劣をはっきり区別し、「あいつはダメ、あいつは良い」とかに結構こだわる立場なので、リバータリアンには受け入れられず実際、サウスパークの中でもアイン・ランドはバカにされています。
 つまりこの映画が言いたいのは、「アメリカ」という価値観に縛られて、何の疑問も無く無邪気にテロリストの悪人を殺す独善的な連中も、「世界平和」とか「平等」とかいう価値観に縛られて、結局共産主義の悪に絡め取られてしまう左翼連中も両方ともアホだということです。お前らがガーガー騒ぐと迷惑なんだよ!ということです。まあ色々な意味で面白い映画なので、一度機会があれば見ることをオススメします。
 ちなみにトレイ・パーカーとマット・ストーンはマイケル・ムーアの「ボウリング・フォー・コロンバイン」でアニメを提供していたのですが、その後反ムーアになったのでしょうか。まあ彼らにしてみればそんなのどうでもよいことなのかもしれませんが。

3月6日(日)の昼

 金曜日の晩、リバータリアンジャーナリストのJohn StosselのABCの番組で興味深い特集をやっていました。人種差別は白人/黒人であるだけでなく、黒人の中でも肌の色が濃い/薄いであるというものです。番組によれば映画などでも肌の色の薄い黒人は知的で金持ちあるいはカッコイイ役柄を与えられることが多いそうで、そうしたイメージは社会における雇用差別、昇進差別を生み出しているとか。もともとこの差別は、奴隷制時代に肌の色の薄い黒人は主人の家の中の仕事を与えられ、肌の色の濃い黒人は野外での重労働に従事させられていたということにも由来するようです。さらに黒人内部でも肌の色の薄い黒人が濃い黒人を見下す傾向があるそうで、時に両者は対立するらしいです。人種問題は複雑なもんです。

 ところでとっとと税金の申告を終わらせて提出したのですが、今年も結局追加で税金を払わなければいけませんでした。"Tax Return"の申請なのにどうしたことかと思います。授業料として払った分は控除されるという噂も聞いたのですが、大学の国際課の例にはそのようなものはなく、単純に手続きに従って計算したところ250ドルさらに払わなければいけないことになりました。年収約1万7000ドルのうち税金で合計約1400ドル差し引かれます。まあ僕はお金をもらえるだけありがたいという考えなので、あまり文句はありませんが…。

3月7日(月)の夕方

 TAをしている「アメリカ政治入門」のクラスでは現在世論の勉強をしています。今回は簡単なアンケートをしました。質問は二つあって、一つは「昨年の大統領選挙で誰に投票したか」。もう一つは「昨年の大統領選挙で、このクラスの典型的な学生は誰に投票したと思うか」というものです。結果は以下の通り。

Q1. ブッシュ:38.5% ケリー:44.6% その他:16.9%
Q2. ブッシュ:26.2% ケリー:67.7% その他: 6.1%

この結果が示すのは、多くの学生が実際の世論を見誤っているということです。つまり学生は全体として実際よりもケリー支持者の数がこのクラスに多いと感じているようです。要するに「大学のクラス」という情報が、学生の判断に影響を与えるということかもしれません。またブッシュ支持者が一般的にリベラルと目されるUTキャンパスで孤立感を抱いているということでしょうか。

3月8日(火)の朝

 今日のオースティンは久しぶりに快晴で気持ちが良いです。日本でいうとちょうど5月くらいの気候で、ぼちぼち半そでが主流になりつつあるという感じです。やっぱ生活するには気候の良い所が良いなあとつくづく思います。東部や中西部で雪に閉じ込められた生活をするというのは僕には想像できません。まあもちろんオースティンのような南部の絶え間ない緩慢ではなく、厳しい寒さによる緊張と室内の暖かさによる弛緩というギャップもそれなりに心地が良いのかもしれませんが。
 関係ありませんが、今「キンパ」にはまっています。「キンパ」というのは朝鮮の巻き寿司で、酢の代わりにごま油が使われています。大学近くのフードコートで4ドル50セントで売っていて、同じ値段で量は巻き寿司よりも断然多いし、おいしいので良く買っています。アメリカでは日本よりも韓国料理が身近にあってしかもおいしいというのがステキだと思います。

3月9日(水)の朝

 先月の初めから中頃にかけて寝つきが非常に悪く、寝てもすぐ起きてしまうという感じで、かといって薬には頼りたくなかったので色々対策をしていました。その一つが基本的なことですが、夕方以降コーヒーを飲まないということ。僕は中学の頃よりコーヒーは一日最低3杯は飲むという生活をしていて、アメリカに来てからはカップが大きくなったので、日本のコーヒーカップで言うと一日最低5杯は飲んでいました。それを先月終わりから朝だけしか飲まないことにしました。するとびっくりするくらい睡眠の状態が良くなって今度は逆に寝すぎて困るという感じに。昨夜も8時間以上寝てしまいました。あとこの対策に付随して、夜はカフェインの入っていないハーブティーを飲むようにしたのですが、これが結構おいしい。以前からよく通っている近所のゲイ系・ヒッピー系の割とオサレなカフェは実はお茶も充実していることがわかり、毎回種類を変えて注文しています。ハーブティーや普通の紅茶の他にも、日本の緑茶や中国茶もあり、値段は全て1ドル35セント。1年半前から実行している、ラベンダーオイルを垂らした浴槽に「ぬるめ・みぞおち・20分」、風呂上りのつぼ押し、肩こり体操なども含めてまるで、女性ファッション誌に出てくるOLさんのような生活です(←ステレオタイプ)。

 昨日のpositive political economyの授業では2週間前に出された「チーム・プロジェクト」の発表が行われました。チーム・プロジェクトといってもそんなたいしたことではなく遊びみたいなもので、5人のクラスを二つに分けて、それぞれできるだけパフォーマンスの高い「経済変数だけを用いた大統領選挙予測モデル」を作るというものです。もちろんこうした作業は過去の先行研究のモデルを参考にするわけで、その過程ではそうした先行研究のモデルのリプリケーションもやります。この先生はこういうリプリケーションが好きで、僕が2年のときにとった「世論と投票行動」の授業では、2週間に1回先行研究のリプリケーションをやりました。その中でわかったのはいかに先行研究の結果を追認するのが難しいか、ということ。論文によっては変数の作り方など結果の追認に必要な情報をそもそも提供していないし、完璧に再現できたと思っても出てきた結果は微妙に違ったり、少し変数をいじるだけで全然別の結果が出たり、論文に現れてくる結果はまさに「奇跡の分析」であることがわかります。今回の作業を通じても、まさにそういう感じで、過去の大統領選挙予測モデルは政治変数も含めて.90近いR-squaredだったりするのに、実際そのような結果を再現できません。またGDP、GNP、Dow Jones Industrial Average、Income Growthなどの経済変数も、どのクオーターとどのクオーターの差をとるか、どれだけの期間をウェイト付けして足し合わせるかなど、どのように加工するかによって全然結果が違い、必ずしもそれは理論にもとづくものではなく、いわば「職人芸」です。まあ結果の予測ということが目的なのだから、"atheoretical"なのは仕方ないのかもしれませんが。
 で、僕のチームは色々と変数をとっかえひっかえしてAdjusted R-squaredやSEEを比較したのですが、1948年以降の15の大統領選挙ということで、自由度の問題なんかもあり、結局シンプルに「大統領選挙の前年の第二期と大統領選挙の年の第二期の可処分所得の変化率」と、チームで独自に作った変数の二変数だけを含むモデルがベストということになりました。この独自に作った変数は"expected recession"と名付けられており、「有権者は選挙の後には、現職の政権の選挙前の経済操作の結果、不況が起こりやすいということを理解しており、そのためその不況がどの程度深刻かどうかで現職政権を評価するインセンティブをもつ。もし有権者が選挙後の不況が許容できないくらいに深刻だと予測すれば、現職政権を罰するであろう」というアイデアにもとづいています。変数の操作化に関しては、まず時系列モデルをもちいて各選挙の次の年の第一期における失業率を推定します。もちろん2005年の第一期を除いてはすでに失業率はわかっていますが、ここでは有権者の「選挙後の不況を予測する」という心理的なプロセスを表現するためにあえて全て推定しています。そして選挙の年の第一期の失業率と、その推定された選挙の次の年の第一期の失業率の変化率をとります。(もちろん理論的にも手法的にもこの変数には問題があるのですが、まあ何かとりあえず新しいことをやりたかったということです。)
 このモデルの予測結果は以下の図のとおり(縦軸は2大政党の候補者だけに限定した場合の、現職一般得票率)。

一目見てわかるとおり、95%信頼区間はどれも50%をまたいでいて、つまりその意味で勝敗を予測するものではありません。ただpoint estimateで見ると、15の選挙のうち1968年、1976年、1992年の3つの選挙を除いては、勝者を当てています。特に昨年の2004年大統領選挙では1.35%の誤差(実際51.24%、予測52.59%)でブッシュ勝利を予測しています。まあといっても、とても信頼できるモデルとはいえませんが。

3月10日(木)の朝

 数日前に大学近くのアウトドア屋でMarmotのジャケットを発見して以来、ずっと買うべきかどうか迷っていました。値段は99ドル。しかし問題は最近はだんだん暖かくなってきてジャケットを買ってもイマイチ使い手が無いということ。それでも「いや、夏になったらなったで図書館とか室内は寒いので必要なはず!」と正当化する理由を見つけ出し、店にも3回通って「バーゲンは無い」ということを確認した上で、いよいよ昨夜購入を決意しました。ただどうしてもそのジャケットの表示にある"Precip"というコトバが気になっていました。そこでネットで調べてみることに。するとどうやら"Precip Jacket"というのは「レインコート」を意味するようでした。つまりこれは雨合羽です。というわけで購入を諦めることができました。それにしても知らないコトバがまだまだ多いです。特に専門用語や論文に出てくるようなコトバではなく、日常生活のコトバが。買わなくて良かったー。

3月11日(金)の朝

 昨夜は大学内の映画館で"The Incredibles"(邦題「ミスター・インクレディブル」)を見ました。「ニモ」や「シュレック」などと同様すばらしい映像で、もうほとんど実写との区別がつかないくらいです。実際、実写映画の「スパイダーマン」とこの映画の映像的な差はほとんど無いのではないでしょうか。やはり動きとかは少しテレビゲームっぽいなあと思いましたが、これもいずれは解決される問題なのでしょう。しかし一方で、いくら今後この線にそってアメリカのアニメが発展したとしても、日本の細密なセル画の二次元アニメが廃れることは無いような気もしました。両者はまるで別物です。文字通りですが、日本の二次元アニメがあくまでも「実写」とは異なる次元にあり、独自の映像表現を持っているのに対して、こうしたアメリカのCGを多用した三次元アニメは「実写」と同じ次元にあり、映像表現も似ているように思えます。つまりCGを駆使した「実写」とCGを駆使した「アニメ」の差は単なるデフォルメおよび非現実の「程度の差」に思えます。ある意味、アニメの良さというものが無くなっている気がします。今後アメリカはこのままリアル路線を追求して、実写映画のような「アニメ」を作るのか、それともあるところで原点回帰してアニメらしいアニメを作るのか、なかなか興味深いです。
 ストーリー的には勧善懲悪の典型的な娯楽作品で純粋に楽しめました。しかしこの種の子供向けのストーリーにおいて、悪人がばったばったと正義の味方に殺されていくことに関して議論は無いのでしょうか。日本でも「かちかち山」などの童話が残酷だなどという議論がありました。子どものうちに善悪がはっきり分かれた世界観を教え込むのは僕は悪いことではないと思います。むしろ僕は宮崎アニメのような白黒はっきりしないグレーなアニメは嫌いです。しかし一方で善悪がはっきり分かれた世界観を元に、「悪人」を殺しているのが現在のブッシュのアメリカです。何だか複雑な問題です。それにしても"The Incredibles"の悪役が元XのTOSHIに見えて仕方ありませんでした。

 関係ない話ですが、現在学部4年のアメリカ人の友人(前書いた人とは別の人)はブッシュの娘をナンパしたことがあるそうです。ブッシュの娘と知ってあえてトライしたのだとか。しかし、数歩後ろを歩いていたシークレットサービスにではなく、隣を歩いていたブッシュの娘の彼氏に"Why don't you get out of here!"と追い払われたのだそうです。彼いわく「ブッシュの娘もその彼氏も両方デブだった」とのこと。ちなみにブッシュの娘はソロリティーのメンバー、彼氏もフラタニティーのメンバーで、二人は高校時代から付き合っていたのだそうです(ブッシュの娘がYaleとかではなくUTに来たのはそのため!?)。その彼氏は今はニューヨークにいるらしいです。

3月15日(火)の昼

 春休みに入る少し前からなぜかオフィスのインターネットの調子が悪く、おかげで割と勉強がはかどっています。改めて下らないネットサーフィンだとかにいかに無駄に時間を費やしていたことが分かります。

 春休みに入って、2回Sheplersという巨大なWestern関係の店に行き、ウェスタンシャツとジーンズを買いました。シャツが17ドル。ジーンズが22ドルとかなり安いですが、両方ともしっかりした作りです。ウェスタンということで、ジーンズはもちろんリーバイスではなく、ラングラー。日本で売ってるラングラー(およびリーも)はエドウィンが権利を得て、日本市場のために作っているもので値段が高く質は良いのですが、何と言うか野趣がありません。リーバイスはアメリカ国内での生産を止めましたが、ラングラーは未だに"Made in USA"です。
 日本のいわゆる「アメカジ」は、ジーンズをできるだけ洗濯しなかったり、洗濯するのに洗剤を使わず、陰干しするだとか、アウトドアブーツをきれいに保つため雨の日は履かないだとか、合理性よりも「スタイル」を重視してきました。僕もアメリカに来るまではこの考え方に同意していました。でもが最近では変わりつつあります。やっぱジーンズは洗いたいときに洗うべきだし、汚れを落とすためには洗剤も使うべきだし、乾燥機にも放り込めばよいと思います。アウトドアブーツもアウトドアなんだから雨とか悪条件であれば、なおさら重宝するはずです。僕も知らず知らずのうちに、だんだんアメリカに毒されてきたのかなあと思います(この前初めてアジア系アメリカ人に間違えられました)。

3月16日(水)の昼

 今朝オフィスに来ると、インターネットが復旧していてある意味少しがっかりしました。これでネットサーフィンの誘惑と戦いながら勉強しなければいけません。

 午前中はいつも、春休み直前が提出日だったTAのクラスの宿題の採点をしています。採点といっても出席確認のようなものなので、基準は「ちゃんと指示通りに課題をこなしているか」ということ。これができていれば3段階評価の最高点をつけます。結果、クラスのほとんどが最高点です。ただし内容的にはなかなか時間と手間がかかるもので、学生は世論調査結果にもとづいた新聞記事を3つみつけ、それらについて要約し、世論調査の情報の正確性および記事の主張の妥当性を論じるということが求められています。世論調査の情報の正確性を評価するに当たっては、「誰がいつ何のために行った調査か」、「サンプル数はいくつで、どのようにしてサンプルが選ばれたか」、「どのような方法で調査が行われたか」、「質問の順序、ワーディングは妥当か」、「サンプリングエラーはいくらか」などを考慮しないといけません。
 学生の解答の中身は別として採点していて思うのが、民間世論調査会社の多さです。利益団体や新聞社の委託で州レベル、および国レベルでさまざまな民間調査会社が世論調査を行っています。またこれらの学生が選んだ記事からわかる程度ですが、手法もそれなりに厳密で洗練されているようです。これに対して日本では政治・社会問題にかんする世論調査を行っているのは新聞社をはじめとする各種マスコミと中央調査社くらいなものであまり多くはないのではないでしょうか。またおそらくこれらの調査の質もまちまちだと思います。僕が調査員として世論調査に従事した経験では、朝日新聞はかなり厳密だったと思いますが、地元の某ローカル紙は超いいかげんで、こんなんじゃ(調査者によって意図はされたものではありませんが)バイアスがかかりまくりという感じした。

3月19日(土)の夜

 今日はロデオを見に行ってきました。ロデオとはカウボーイの技を競い合うイベントで、一種のスポーツとしてプロのロデオ選手が冬から春にかけてのシーズン中アメリカ南部および西部各地を回り、ロデオの「世界チャンピオン」を決定します。競技の種類としてはどれだけ華麗に荒くれ牛や馬を乗りこなせるか、いかに早く馬上から投げ輪で子牛を捕まえて足をくくれるかなど非常に泥臭いものです。イベントは全体として愛国的かつ保守的で、開会の前には競技するカウボーイの身の安全と祖国の繁栄を願って、観客も含めて全員起立、脱帽で神に祈りがささげられ、その後大きな星条旗を掲げたカウガールが颯爽と登場。カントリー歌手によるアメリカ国歌独唱が行われました。客も選手もほとんどが白人で、アジア系はもとよりヒスパニック系もほとんどいませんでした。競技の合間には子どもによる子牛捕まえ合戦や、馬車の行進などアトラクションがあり、最後はカントリーミュージックのコンサートで締めくくられます。まさにアメリカ南西部の田舎の娯楽の集大成といったイベントです。出場している選手の出身も、テキサス、オクラホマ、アイダホ、モンタナ、ワイオミング、ノースダコタ、サウスダコタ、ネブラスカ、カンザスなどいかにもな所(先の大統領選挙でブッシュが勝った州ばかり)が多く、当然東海岸出身など誰もいません。動物虐待とも思えるような場面も結構あり、おそらく東部のリベラルな風土には合わないイベントではないかと思いました。いずれにせよ、「リアル・テキサス」を満喫し、大満足でした。ちなみにロデオのオフィシャルジーンズはラングラーで、カウボーイはほとんどラングラーのジーンズとシャツを着用しており、僕も先日買ったウェスタンシャツとラングラーのジーンズで行きました。

Bareback Riding(暴れ馬乗り)のパドックのようなところ。良く分かりませんが馬は股間を締め付けられ、人工的に「暴れ馬」状態を作り出されている模様です。

Bull Ridng(暴れ牛乗り)の模様。デジカメが安物なので超ピンボケです。

3月21日(月)の昼

 最近日本で話題になっているらしいレイザーラモン住谷の爆笑問題の番組での動画を初めて見ました。うーん、何がおもしろいのか良く分からない…。レイザーラモン自体は昨年末の「オールザッツ漫才」にも出ていたし前から知っていたのですが、ビジュアル以外は特に印象にありませんでした(父とそのハードゲイの息子が一緒に釣りをしているというシュールなネタで、笑いながら「父ちゃん、ハードゲイになってごめんなー」、「いいんだよー!」とかいうやりとりは面白かったですが)。ところでこういうネタはアメリカでは許容されるのでしょうか。アメリカってゲイとかエスニックマイノリティーの差別に敏感なようで、結構テレビではゲイやエスニックマイノリティーが笑いの種にされていたりするのでよくわかりません。
 ちなみに彼は同志社大学出身とのことです。年齢的に僕の一つ上で、おそらく学年的にも近いはずです。大学時代どこかですれ違ったりもしたのでしょうか。また彼は同志社の学生プロレスに所属していたそうで、当時同志社3バカサークルと呼ばれたプロレス、人力車、アドベンチャーの全てに入っていた、僕のサークルの先輩なんかはレイザーラモン住谷を直接知っていたりするのかもしれません。しかしお笑い芸人志望と研究者志望って全然違うようですが、一人前になるまでの期間、職業としてやっていける可能性という点では、実は似ているような気がします。

 土曜日の日記にロデオの写真を追加しました。

3月23日(水)の朝

 『選挙学会紀要』という日本の学術誌に論文を掲載していただけることが決まりました。もともとこの論文は去年の今頃書いていた時系列分析のクラスのファイナルペーパーです。内容的に一般的な理論に関するものというより日本政治特有のことに関することだったので、アメリカのジャーナル向きでは無いと考え、翻訳の上、日本の学術誌に投稿させて頂いた次第です。昨年の10月に投稿し、今年1月には一人の査読者から「そのままで掲載可」、もう一人の査読者から「修正の上、掲載可」との返事を頂き、修正。それを今月の初めに提出し、つい先日最終的に「掲載可」との連絡を頂きました。
 レビューのコメントでは理論的なことや議論の中身、誤字脱字など、思ったよりもかなり詳細で広範にわたる有益なアドバイスを頂きました。今回が初めての論文の投稿だったのですが「ここまで細かく見ていただけるんだなあ」と驚き、ありがたく思うとともに恐縮しました。やはり書いた論文はダメもとでも出してみるべきなのかもしれません。例え本当にダメでも本職の研究者からこれだけ詳細なコメントがもらえるなら損では無いと思いました。今度はぜひともアメリカの学術誌に挑戦してみたいものです。

 おとつい僕のアドバイザーの一人が教えるundergraduateのクラスにブッシュ大統領の側近中の側近であり、選挙参謀・最高政治顧問であるカール・ローブがゲストで来ていたそうです。この先生はブッシュの選挙ストラテジストとして去年と2000年のキャンペーンに参加し、その業績によって現在はブッシュ大統領の任命で連邦政府の役職にもついています。きっとそのツテで呼んできたのでしょう。概してブッシュ嫌いの学生たちはどう反応したのか気になるところです。
 ちなみにローブはあくまで「政治」顧問であって、ライスのように政策には関わりません。それよりもどうやってブッシュを選挙で勝たすか、どうやって権謀術数渦巻くワシントンの政治を操るかそのストラテジーを考えます。例えばブッシュを「カウボーイ」として売り込んだり、大統領当選後、ブッシュが誰とどこでどの順番で会うかなどについてアドバイスしたり。ブッシュのテキサス州知事選挑戦のときに、現職の民主党知事がゲイだという噂をまことしやかに酒場などで吹聴し、口コミで広めるという戦略を考えたのも彼だと言われています。

3月24日(木)の夜

 最近はオフィスではあまり勉強はせず、オフィスアワーのときのみ来ています。今日もオフィスアワーが終わり、「あーやっぱネットで遊んじゃったなー」などと思いながら帰り支度をしていると、同室の韓国人が突然「シネマに行ったことがあるか?」と聞いてきました。シネマ?、映画?と思って聞きかえすとどうやら彼は土地の名前を言っているようでした。…「島根」です。きょうび、韓国人の口から「島根」というコトバが出るとすれば竹島(独島)問題以外ありません。案の定彼は領土問題に話を振ってきました。いわく「日本人はこの問題についてどう思っているのか」。彼はいつもどおり極めて友好的な雰囲気だったのですが、問題が問題だけに僕としては慎重にならざるをえません。あえて傍観者的な立場から「ほとんどの日本人はただ冷静に事の成り行きを見守っているだけだと思う。あと、韓国人は指を切ったりしてエキサイトしていて怖いなあ…とか」と答えました。彼はどうやらこの問題が今回顕在化したのは日本政府の意図によるものだと思っているようでした。いわく「日本政府はこの問題をきっかけに東アジアの国際社会におけるプレゼンスを高めようとしている」と。さすがにこれは全然違うと思ったので、だいたい以下のように言っておきました。

「日本政府としては出来るだけこの問題にスポットライトが当たらないように、あえて曖昧なまま先送りして、日本国民の目からそらそうとしてきた。どうせ誰にも納得いく形で解決なんてできない問題だし、取り上げることで日韓関係が悪くなるだけだから。つまり日本政府はこの問題に国民の目が集まることによって何の利益を得ることもない。今回は漁業問題で竹島問題に実質的な利害をもつ島根県があえて『竹島の日』の制定を議決し、全国民にこの問題の存在を気づかせ、国にこの問題の解決を積極的に進めることを迫った。こうなると政府としても国民の手前、この問題を考慮せずにはいられない。でも内心日本政府は「余計なことをしてくれたなあ…」と島根県のこの措置を不愉快に思っているはずだ。むしろこの問題を利用しうるのは韓国のノ・ムヒョン大統領の方だ。彼は国内での人気が低迷していて、この問題で日本を叩くことで人気アップを図ろうとしているのかもしれない。しかも野党のハンナラ党は日本と関係の深かったパク・チョンヒの娘が党首の党だから、日本を叩く=野党ハンナラ党を叩くということにもなる。」

 要するに巷でよく言われていることのパッチワークなわけですが、彼はこの意見にだいたい同意して、議論は終わりました。実は僕は大学4年から大学院1年にかけてかなり日韓関係に関心があって韓国語を習いつつ、右翼系左翼系の集会に潜入していわゆる従軍慰安婦や竹島問題を勉強しており、この問題に関してはかなり強い個人的な意見をもっています。でもそれはおそらく韓国人を徒に不愉快にさせるだけのものなので、あえてこの場では言いませんでした。ただ、もし僕が韓国人に生まれていたなら、今回メディアでよく報道される韓国人のようにエキサイトしていたでしょう。つまり彼らが怒り狂う気持ちもよくわかります。
 現在、アメリカ中の日本人留学生と韓国人留学生の間で、この問題に関して多かれ少なかれ議論が行われているのではないでしょうか。僕は個人的に留学中に韓国人相手に不愉快な思いをしたことは全くありませんが、中にはこの問題を通じて不愉快な思いをする人もいるでしょう。これも歴史的な禍根のある隣国同士の宿命なのかなあと思います。

3月28日(月)の夜

 中西部政治学会で僕が発表するパネルのチェアから先週の火曜日にメールが来て、「火曜日までにペーパーを提出すること」とありました。「火曜日」というだけで日付の指定はありません。学会発表本番は4月9日(土)。僕はなぜかこのとき3月29日(火)締め切りと思い、先週以来あせって作業を進めていました。しかし今日ふとこの「火曜日」とは4月5日(火)なんじゃないかと希望も含めて思うようになりました。実際どうなのか迷ってしまいます。かといって聞くのもアレだし…。ちなみにペーパーは例によってあまり良い出来ではありません。いつか満足のいくペーパーを発表できるようになりたいものです。

 今日はアドバイザーの先生に会いました。その中で日本のジャーナルに論文がアクセプトされたというべきかどうか迷ったのですが、結局言うことにしました。アメリカのジャーナルじゃないし、何ていわれるかなあと心配していたのですが、結果よろこんでくれました。やっぱ人から面と向かって祝福されるとうれしいもんです。

 全然関係ないのですが、昨日「今後シャツはズボンの中に入れよう」と思い立ちました。もう若くないんだし、変に若作りせず年相応=おっさんくさい格好をするべきと思ったからです。これからはポロシャツもズボンの中に入れます。人は年を取っていく上で、いつかこのような決意をする時期があるものなのでしょうか。

 あと昨日発売された『アエラ』に僕がその取材をお手伝いした、ブッシュ牧場のあるテキサス州クロフォードについての記事が掲載されているそうです。意外なことに僕の名前もちょこっと登場しているらしいです。僕はまだ読んでいないのですが、現地での濃い体験が詰まった面白い記事だと思うので機会があればぜひ。

トップに戻る
トップページに戻る